〜ある日の診療室での会話〜
何故、歯ぎしりをするの?
歯ぎしり(プラキシズム)は様々要因が考えられ、特定の原因は不明です。
しかし、危険因子として大きく分けて3つ原因が考えられます。
1,心理的な要因(ストレス、不安など…)
2,全身的な要因(呼吸器、消化器、中枢的な要因など…)
3,その他(原因不明)
それぞれについて説明します。
心理的な要因(ストレス、不安など…)
簡単にいうとストレスです。
保護者のお話をよく聞くと、歯ぎしり(プラキシズム)が出始めた時期としては
・下のお子さんが生まれた
・保育園、幼稚園に入学した
・卒乳した
・試験期間
・保護者に怒られた
などなど…
精神的に不安な要素がある時に強くなる傾向があります。
成長するのに必要な関門をクリアーする時には歯ぎしりが強くなり、心理的な要因が原因の場合には時間とともに収まってくる傾向を認めます。
全身的な要因(呼吸器、消化器、中枢的な要因など…)
嘔吐反射(吐きやす)が強い子には歯ぎしりを認めることが多いです。
発達障害(自閉スペクトラム症・Down症など…)では強度に歯ぎしりがでることがあり、歯がほとんど無くなるぐらい歯ぎしりをするケースもあります。
また、口を開けて寝る子にも歯ぎしり(プラキシズム)が多いケースもあり、全身的な要因は多岐にわたります。
その他
「原因が不明」
本当に原因がなくやる子供もいます。音が楽しいから?ただの癖??不明なことが多いです。
歯ぎしりをする子の割合は?
実は子供の方が大人より歯ぎしりの頻度は高いです!
大人の歯ぎしり(プラキシズム)の割合は約5〜10%程度、子供の場合は論文によりますが約10〜50%と幅広です。
子供の歯ぎしりは年齢に特徴があり、次のような論文があります
2歳から12歳までの小児6023人の保護者に夜間の歯ぎしりについてアンケートを行い、全体では平均21%に認めた。
Associations of sleep bruxism with age, sleep apnea, and daytime problematic behaviors in children.: Tachibana M,et al
年齢別では2〜4歳郡18.5%、5〜7歳郡27.4%、8〜9歳郡20.2%、11〜12歳郡17.3%とであり、6歳で歯ぎしりのピークを迎えていた。
この論文からも子供の歯ぎしり(プラキシズム)のピークは6歳です!それから緩やかに減少する傾向になります。
よって、生理的な範囲の歯ぎしり(プラキシズム)なら経過観察すると消失してくる事がわかります。では生理的な歯ぎしり(プラキシズム)とは何か??
次に歯ぎしり(プラキシズム)の種類について説明します。
歯ぎしり(プラキシズム)の種類
歯ぎしりには3種類のタイプがあります。
・グラインディング
・クレンチング
・タッピング
それぞれについて詳しく説明していきます。
グラインディング
皆さんがよく知っている歯ぎしりです。睡眠時に起こる事が多いです
ギリギリ、ガリガリ音がするのがこのパターンに当てはまります。
保護者も気づきやすく、一番歯にトラブルが出やすいのがこのパターンです。
クレンチング(くいしばり)
口の中をみるとだいぶ歯が削れているで、お母さんに質問してみたら「うちの子はしてません」と言われてしまうパターンがこのクレンチング(くいしばり)です。
ぎゅーと噛んで、音が無い、無音の歯ぎしりです。
なので、わかりにくいだけに発見が遅れやすいです。
クレンチングは昼間に出ることが多く、大人でも最近問題になっています。
軽いクレンチングはTCH(Tooth Contacting Habit)として認識され、上下の歯を持続的に接触させる癖により、歯の組織に大きなダメージがあることがわかっています。
保護者の方も、何か集中しているときに上下の歯が噛み合っている方いませんか??
タッピング
ギリギリよりカチカチする音がします。
タッピングは昼間起きているとき、歯が出てきたばっかりの低年齢のお子さんに多い気がします。歯が出てきて、音が楽しい?感触を楽しんいる?のでやっているのかな?と思われます。
歯ぎしりによる悪影響
歯ぎしりに対する悪影響として以下のような事がおこります
・歯の咬耗
・顎関節の痛み
・偏頭痛・肩こり
歯の咬耗
歯の咬耗には2種類あり、生理的な咬耗(問題なし)、異常な咬耗(危険な咬耗)があります。
<生理的な咬耗>
歯ぎしりはするが、異常でない程度の削れ具合です。
どんな子でも歯をくいしばったり、ギリギリします。
<異常な咬耗>
上の生理的な歯ぎしりと比較して、歯がだいぶ短くなっているのがわかると思います。これだけやられちゃうと異常な歯ぎしりと診断されます。
あまりに酷い子だと、歯ぎしりが強くて、歯の裏側が激しく削れて歯の神経が出てしまい、歯の神経の治療が必要になった!なんて子もいます。また、歯ぎしりの為、むし歯で詰めた銀歯やプラスチックが取れてしまう原因にもなります。
顎関節症
子供は歯ぎしりによる顎関節症は少ないです。
夜間の歯ぎしりにより朝起きたときに顎が痛い、昼間のくいしばり(クレンチング)により顎が痛いなどは歯ぎしりの影響だと考えられます。
子供の顎関節症は12歳以上でくいしばり(クレンチング)がある子に多い特徴があります。低年齢では筋肉が柔らかく少ない傾向にあります。
あれ、おかしいなと思ったらかかりつけ医に相談してください。
偏頭痛・肩こり
筋肉が柔らかい子供には偏頭痛・肩こりは少ないです、逆に大人は筋肉が固く、実は歯ぎしりが原因で肩こり、偏頭痛がある…なんて事も多いですよ。
逆に低年齢の子供で偏頭痛・肩こりがある場合は歯ぎしり以外に原因があり、歯科以外の治療が必要なケースがありますので注意してください。
歯ぎしりの治療法は?(年齢別)
年齢毎に対応が変わります
0〜2歳
この年齢は歯が出てきて「歯がゆい」時期です。
歯が出てきてムズムズする…何でも口に入れて噛む、手を入れる…機嫌が悪い…
この時期は歯が出てきて、赤ちゃんからすれば「これなんだ??」と感触を楽しんでいる時期です。歯ぎしりが見られるが、生理的な歯ぎしりがほとんどなので、歯ぎしりをしていても問題ないことが多いです。
この年齢だと、仮に日中していても「歯ぎしりしないで」と注意しても無理ですよね…
この時期の歯ぎしりは経過観察です。
(※歯科医師の管理のもとの経過観察です)
3〜5歳
歯ぎしりが本格的に始まるのがこの時期です。
うちの子も下の子が生まれた時期から歯ぎしりが始まりました…
やはりお母さんを取れてしまったストレスですかね??
この時期は様々なイベントがあります…幼稚園入学、下の子が生まれた、友達と喧嘩した…などなど
歯ぎしりの引き金となるイベントが多いですね。
通常の歯ぎしり、生理的な歯ぎしりなら問題はありません。
しかし、上記のような異常な歯ぎしりにはナイトガードが必要です。
ナイトガードとは?
マウスピースのことです。
夜間の歯ぎしりには絶大な力を発揮して、音が聞こえなくなります。
しかし、歯ぎしりが収まったわけではくマウスピースを削ってるだけです。
酷い子だとソフトタイプのマウスピースなら1か月で食い破ります…そりゃー歯削れるは…と思います。
デメリットとしては…
・むし歯が多い子は気をつけないと、ナイトガードをしているとさらにむし歯の
リスクが高くなります。菌をパックするようなものなので…しっかりと歯を磨
いていてからつけましょう…
・若干成長抑制が考えられます、硬いタイプのナイトガードだとパッチとはいる
ので。
・歯の交換する時期にはつけるのが困難です、歯が揺れているし、歯が出てくる
のでナイトガードが合わなくなります
6歳以上(歯の交換期)
6歳以上になると歯が交換する時期になります。
その時期は「歯がうまく噛み合わない!」=「ストレス」となるので、子供が5〜7歳で歯ぎしりが一番多くなる理由なんだと思います。
また、今までまったく歯ぎしりが無かったのに、この時期だけ歯ぎしりがでる事もあります。しかし、6歳以上の歯ぎしりの特徴は永久歯が生え揃うと突然とまることです。
よって、この時期は一時的な事が多いので経過観察が多いです。
(※歯科医師の管理のもとの経過観察です)
12歳以上(永久歯が揃った時期)
歯ぎしりにより歯の咬耗だけでなく、筋肉が子供のような柔軟性がなくなり、顎関節症や偏頭痛・肩こりななどの症状がでることがあります。
よって、この時期になると症状があるようならナイトガードによる治療が必要となります。
一度、歯ぎしりが酷いならかかりつけ医で相談してください。
歯ぎしりには様々な症状があります。経過観察していい歯ぎしり、経過観察してはいけない歯ぎしりがありますので、かかりつけ医の先生とよく相談してくださいね!
まとめ
歯ぎしりは生理的な現象です。しかし、あまりに強度だと様々な影響を及ぼします。
心配の場合は一度、かかりつけ医で相談してください。
うちの子、毎晩ギリギリ、ギリギリ凄い歯ぎしりがあります。どんな対応をすればいいですか?